日本の上下水道の普及率は世界的にも高く96%となっており、水を安心して利用できるのは上下水道がきちんと整備されている為です。しかし世界では綺麗な水を口にすることが出来ない国もあります。
世界の上下水道の普及率と原因や抱える課題、今後の展望について解説いたします。
水道の利用可能率が低い10国
世界で基本的な水の利用可能率が低い国をご紹介いたします。
順位 | 国名 | 普及率 | 100%目標年 |
1位 | エリトリア | 19% | 2507年 |
2位 | パプアニューギニア | 37% | 見込みなし |
3位 | ウガンダ | 39% | 2118年 |
4位 | エチオピア | 39% | 2056年 |
5位 | コンゴ | 39% | 2239年 |
6位 | ソマリア | 40% | 2062年 |
7位 | アンゴラ | 41% | 2289年 |
8位 | チャド | 43% | 2259年 |
9位 | ニジェール | 46% | 2119年 |
10位 | モザンビーク | 47% | 2047年 |
衛生設備の普及率が低い10国
続いて世界で基本的な衛生設備の普及率が低い国をご紹介いたします。
順位 | 国名 | 普及率 | 100%目標年 |
1位 | エチオピア | 7% | 2370年 |
2位 | チャド | 10% | 見込みなし |
3位 | マダガスカル | 10% | 2281年 |
4位 | 南スーダン | 10% | 2123年 |
5位 | エリトリア | 11% | 2347年 |
6位 | ニジェール | 13% | 2203年 |
7位 | ベナン | 14% | 2341年 |
8位 | トーゴ | 14% | 2449年 |
9位 | ガーナ | 14% | 2428年 |
10位 | シエラレオネ | 15% | 2302年 |
ランキングの上位にあがるほとんどの国は、汚職がまん延する独裁政権下にあります。また発展途上国の割合も多い傾向にあり、100%達成まではまだまだ時間がかかりそうです。
GDPが年間1,000ドル以下の28国
1人あたりGDPが年間1,000ドル(約11万円)以下の国も、合わせてご紹介いたします。
順位 | 国名 | GDP |
1位 | 南スーダン | 246ドル |
2位 | ブルンジ | 339ドル |
3位 | マラウイ | 342ドル |
4位 | 中央アフリカ | 425ドル |
5位 | イエメン | 449ドル |
6位 | モザンビーク | 472ドル |
7位 | コンゴ | 477ドル |
8位 | マダガスカル | 479ドル |
9位 | ガンビア | 500ドル |
10位 | シェラレオネ | 505ドル |
11位 | ニジェール | 510ドル |
12位 | アフガニスタン | 601ドル |
13位 | トーゴ | 698ドル |
14位 | ウガンダ | 711ドル |
15位 | リベリア | 722ドル |
16位 | ブルキナファソ | 750ドル |
17位 | ギニア | 816ドル |
18位 | ルワンダ | 819ドル |
19位 | ハイチ | 847ドル |
20位 | タジキスタン | 848ドル |
21位 | コモロ | 869ドル |
22位 | エチオピア | 909ドル |
23位 | ギニアビサウ | 910ドル |
24位 | マリ | 917ドル |
25位 | ネパール | 918ドル |
26位 | チャド | 919ドル |
27位 | ベナン | 966ドル |
28位 | スーダン | 992ドル |
上下水道整備と電力普及率の関係
3つの表を見てきましたが、上下水道整備には電力の普及率が非常に重要です。
世界の無電化地域(電気が供給されていない地域)の人口は約13億人だと言われています。つまり世界の全人口の約20%(5人に1人)が、いまだ電気のない暮らしを送っているのです。ではなぜアフリカでこれほど電気の普及が遅れたのでしょうか?世界各地の電力普及率を見てみましょう。
ヨーロッパ・北アメリカ・ロシア・アジアの先進国・オセアニア・北アフリカなどは99%、また中東や南アメリカでも90%以上に電気が普及しています。
一方、アジアの発展途上国は83%、アフリカ大陸のサハラ砂漠より南の地域になると、なんと32%の地域しか電気が通っていません。
電力の整備が遅れている理由は、過酷な自然環境以外にも、紛争や内戦、また宗教上の対立などさまざまな要因が挙げられています。この地域の経済成長と治安の安定は、電力の普及と切り離せない重要課題となっているのです。
電力の普及率と上下水道の整備とは具体的にどのように関わっているのでしょうか?それは電力の供給によって水道管を製造する工場の建設、水道管を整備する工事、そして水道を各世帯に送り届ける装置の開発、これら全てのことは電力の供給がなければ出来ないことなのです。
電力の供給があれば食品、日用品、医薬品などの供給も行えGDPの上昇にもつながり国家自体が豊かになります。電力の供給により学校の建設や病院の建設など日常生活をおくる上で重要な設備を整えることができます。それほどまでに電力の供給は優先すべき急務なのです。
上下水道の整備でも安全な水の提供を行うには生水を体にとって無害にする為の薬品を投薬しなければなりません。その薬品を製造する工場の建設にも電力供給は欠かせません。この為まず、電力の供給を1番初めに考えなければなりません。
上下水道整備と宗教・価値観
宗教上の問題が上下水道の普及を妨げている場合もあります。インドのガンジス川は矛盾に満ちています。
この大河は冷たく、その水源はヒマラヤ山脈の氷河にまでさかのぼる河川です。しかしその透き通った水は、インドの人口密度の高い都市を通りベンガル湾へ流れ込むまでに、ゴミと下水で汚れた水に変わります。
インドのモディ首相は2015年、30億ドル(約3,170億円)を投じて、4億人が飲み水として利用し、10億人を超えるヒンドゥー教徒が聖なる川として崇拝するこの川を浄化する目標を掲げました。しかしロイターの報道によると、状況改善の為に実際に使われた予算はその4分の1以下であることが、最近の監査で明らかになりました。モディ政権は2018年初めまでに川の水質を改善する目標を定めていたが、達成はできていないようです。
ガンジス川はヒマラヤ山脈の透き通った水を水源としておりますが、都市や工業地帯を流れるうちに、その水は激しく汚染され、有害なヘドロと化していきます。人口密度の高い地域を流れるにつれ、周辺の都市から汚れた水や堆積物が入り込みます。
10億人を超えるヒンドゥー教徒にとって、ガンジス川は聖なる川です。敬虔なヒンドゥー教徒にとって、ガンジス川の水は聖なる水で、死者の遺体を火葬する前に聖なる川で清めています。そのすぐ近くでは、住民がガンジス川で沐浴や調理をしています。
昨年の政府調査で、最大で基準値の23倍のふん便性大腸菌が検出された地域もあり、汚染が深刻ですが、聖地の信者たちの危機感は全くありません。中流に位置する聖地、北部バラナシでは川岸に沐浴場があり、多くの信者が水に入ったり口をゆすいだりしています。
インド紙のヒンドゥスタン・タイムズは3月末、バラナシの調査地点では、100ミリリットル当たり500個という基準値に対し9~20倍の大腸菌が検出されたと報じました。生活排水が処理されないまま流れ込んでいるのが原因です。処理能力は約4分の1しかありません。
流域人口が増え、排せつ物のほか工場廃液も増加し、川岸で火葬された遺体や遺灰も流されています。日本政府は円借款を通じ、バラナシで大型下水処理施設の建設や下水管の整備を支援しています。
ガンジス川を崇めている人は水質汚染を伝えても「ガンジス川のことを全く理解していない」と一蹴します。2,525kmにも及ぶガンジス川は、究極の矛盾をはらんでいます。
10億人ともいわれるヒンドゥー教徒が信仰している対象であり、約4億人の水源として重視されていますが、工場排水、未処理の下水、家庭ごみなどで汚染されています。また全世界の海洋プラスックごみの9割を生み出す10ある川の一つでもあります。
ヒンドゥー教徒は、最大の聖地であるこの都市を流れるガンジス川の近くで亡くなったものは、輪廻から解脱できると考えている為か、バラナシのガンジス川のほとりにはいくつかの火葬場があり、国内あらゆるところから運ばれた遺体が、燃やされています。
日本人にとっては、狂気のようにも思えるこの行動ですが、インド人にとっては普通のことです。この為、死体が浮いている=汚いと考えてしまう私たちが理解するのには、相当な困難が伴うのです。
彼らは本当にガンジス川と共に生き、共に死んでいくことを望んでいるのです。インド人の立場からしてみると、ほとんどの日本人が無宗教信者であることも理解できないはずです。このことからも、21世紀に生きる私たち地球人が抱える「宗教」という問題の根元が垣間見えるのではないでしょうか
上下水道普及率を妨げる課題
上下水道が普及していない国にとって、それを妨げる課題は大きく4つあります。
- 社会意識
- 法制度
- 組織体制
- 財政
それぞれを詳しく解説いたします。
1社会意識
下水道を設置できたとしても、発展途上国市民の無行動や違法行為によって水道代の滞納や、そもそも払う気がない人が多く、適正な料金を設定しなかったり、料金を徴収したりすることも困難です。
住民や企業の低い環境意識が下水道整備を困難にさせています。
2法制度
発展途上国では政策の立案能力が低い場合が多くあります。
実行性のない法案ばかりで、誰に義務があり、誰が責任者で誰が実行するのか?という重要なことが盛り込まれておらず、法律が存在したとしても機能していなければ下水道設備まで至りにくいです。
3組織体制
法制度の執行や実務に対して、モニタリングや立ち入り検査、データ管理、対策指導をする体制が不十分であると、問題があった際、どうすることも出来ません。また汚染の実態があったとしても把握できず、汚染の実情が浮き彫りになっても施策に反映することが極めて困難です。
他にも行政と民間企業、住民らとの連携の欠如や、情報開示と住民に対する衛生観念の啓発・教育が困難なことが挙げられます。
4財政
発展途上国では汚染対策に充てる予算が低いことや、社会的優先順位が低いことが挙げられます。
詳しくは人材不足、汚水処理設備の不足、不十分な維持管理などが挙げられます。
上下水道整備の今後について
先進国は発展途上国に対して経済支援を行い、下水処理施設の建設や、人材の派遣、発展途上国のかかえる課題の研究・分析を支援しております。また市や民間企業が無償で一部の国に対して支援を行うケースも増えています。発展途上国には先進国が資金・技術・人材を支援していくことで解消されるケースが多いと考えられます。
インドネシア・チタルム川
チタルム川はおよそ2700万人の人々の生活を支える河川です。インドネシア大統領は7年間をかけて抜本的解決を目指しており、日本政府に支援を要請しています。
カンボジア・プノンペン都の汚水処理場
カンボジア政府は2035年を目標とした「汚水対策マスタープラン」を策定しました。
ラオス・ビエンチャン汚水処理場
2017年にラオス政府は新しく環境基準を設定しました。それに伴い、「汚水処理適正構想」を策定しています。合わせて「汚水処理場の適正な設置と維持及び管理についての設計基準とガイドライン」、「工場立ち入り検査のガイドライン」を定めています。
日本人は世界的に見ても衛生観念が非常に大衆に周知されています。
トイレの後は手を洗う、ごみのポイ捨てはしない、家庭ごみを川に流さない、工場排水の無毒化。これらは日本が時間をかけて幼少期から教育していたことが実った成果です。
しかし世界にはそういった教育が行き届いていないところが多くあり、衛生観念を育てる教育の場をつくることも、上下水道整備の普及において重要なことでもあります。
【参考文献】
ザ・タイムズ・オブ・インディア
WWF公式サイト
JICA(独立行政法人 国際協力機構)
毎日新聞デジタル ガンジス川、水質汚染深刻化 基準上回る大腸菌
BUSINESS INSIDER JAPAN ビジネス インサイダー ジャパン