膝関節症や股関節症を患っている方には2つのことが重要視されます。
- 体重をコントロールすること
- 下半身に筋肉をつけること
自身の体重が標準体重を超えている場合、BMIが22を超えている場合は注意が必要となります。膝関節症や股関節症を患っている人には体重が大きな負荷となります。体重が増えれば増えるほど関節には負荷がかかります。運動をすることが必要ですが、ウォーキングやランニングをすると関節を痛める可能性が非常に高いです。
これでは良くなるものも良くなりません。
そこで注目されているのが、プールでウォーキングをする「水治運動療法」です。
プールでは浮遊力があるため関節への負担が少なく、水による抵抗力があるため効率よく筋力をつけることができます。20分歩行してやっと脂肪が燃焼される状態になります。この為、40分程度プールで歩行することが脂肪を燃焼し体重を減少させることができます。
水治運動療法・温浴治療と作業療法について解説いたします。
水治運動療法とは?
水治運動療法が良いとされてきたのはいつ頃なのでしょうか?それは1963年ドイツの温泉保養地BAD RAGAZで発祥されたとされています。水治運動療法は、その後イギリスに伝承され、オックスフォード大学を中心とする研究グループによって飛躍的な発達を成し遂げました。
日本で初めて水治運動療法が導入されたのは、1983年日本国立障害者療養センターでオックスフォード・バス法による水治療法でした。その後、国立リハビリセンターを中心としてリハビリ専用プールが増設されました。日本ではつい最近まで水治療を行うことがなかったのです。
プールで歩行することで関節に少ない負荷で筋肉量を増やすことができます。何故筋肉をつけることで関節の痛みを和らげることができるのでしょうか?それは膝や股関節周囲の筋肉量が増えると関節の動きをサポートしてくれる働きが大きくなる為です。
筋肉量が少なければ歩く際の負荷がそのまま関節にかかってします。しかし筋肉量が増えた状態で歩くと関節の動きを筋肉がカバーしてくれる為、負荷が減少し痛みも軽減されます。脂肪を燃焼させ筋肉量を増加させることで関節の痛みが和らぎます。
もちろん人工関節の手術をしたり、関節周囲に溜まった水を医師に抜いてもらったり、ヒアルロン酸注入するといった医学的なアプローチも必要な時があります。しかし、医学的処置を行ったからといって体重をコントロールしなかったり筋肉量を増やさなかったりすることは根本的な解決にはなりません。
医学的処置も含め、体重コントロール、筋肉量の維持・向上を合わせて日常生活をおくることが必要になってきます。勿論関節の痛みの状況を見ながらの運動が必要ですので無理のない範囲で水を利用した運動を行って下さい。
水治運動療法の期待できる効果
ここでもう一度水による効果を確認しておきたいと思います。
水の浮力によって、下半身への負担が減ります。水位がみぞおち辺りの場合では、下半身にかかる体重は約70%減るとされています。またプールの水に胸までつかった状態では、浮力で体重が10分の1程度になります。筋肉や関節への負担が軽くなり、腰や膝の痛みも軽減する為、陸上より楽に体を動かすことができます。水中で身体を動かすと動かす方向とは反対の方向に水の力が加わります。
この力(抵抗)は筋肉には適度の負荷がかかることになります。つまり水に入ると、浮力で体重が軽くなり、膝や股関節が悪いと陸上での運動は難しいが、水の中なら楽にすることができ、重力に抗する筋肉の大腿二頭筋や大殿筋などに負担をかけずに、歩行のための前脛骨筋や大腿直筋などを鍛えられるのです。
水の抵抗が加わり、短時間でも多くの運動量になるとされています。また心臓に戻る静脈の血液の流れが、水圧がかかることで促され、血行が良くなります。これらの特徴から、水中運動は陸上の運動に比べて約3倍のエネルギーを消費するとされており、減量にも効果的と考えられます。
水圧の効果も大きいとされています。
水深1メートルで1平方メートル当たり1トンもの圧力を受けます。この圧力が適度に血管を圧迫し、静脈の血液が心臓へ戻るのを助けてくれます。心臓の負担が減るので心拍が上がりにくく、より多くの運動ができます。さらに水温の効果も加わります。プールの温度は体温よりも低いため、身体は体温を保とうとして、より多くのエネルギーを消費します。つまり水中ウォーキングにはダイエット効果もあります。
まとめると水治療は浮力による運動負荷の軽減水の抵抗による適度な運動負荷、水圧によるマッサージ効果、循環軽減、水温による寒冷刺激効果、精神的なリラックス効果があります。
正しいフォームのコツは「キレイな姿勢」です。疲れてくるとフォームは崩れやすくなります。疲れてきた時は、「人から見られてもキレイな姿勢になっているか?」を意識してください。また、姿勢を良くしようとして、腰が反らないように気をつけましょう。特にお腹に力を入れておくこと。しっかり引っ込めて歩くようにしましょう。
綺麗な姿勢と合わせて前傾姿勢も意識してください。水の抵抗は注意すべき点でもあります。正しい方法で取り組まないと体を痛めてしまいます。そうならないためには前傾姿勢が大切なのです。前傾姿勢で腹筋を意識しておくことで怪我の予防につながります。腰痛予防にも良いです。また腹筋が鍛えられ、ウエストの引き締めにつながります。
水治運動療法の具体的な方法
ここからは具体的に体をどう動かしていくかをご紹介します。
肩まで水に浸かるくらい大きな歩幅で水中を歩きましょう。水の中は歩きにくいので、腕をしっかり振ることが重要です。大きく振ることで歩きやすくなります。さらに上半身の筋肉も鍛えられます。水中ウォーキングは、股関節全体を使って大きく素早く動かすことで、インナーマッスルである大腰筋を鍛えることができます。インナーマッスルなどの筋肉が鍛えられると、体の引き締まりを実感しやすくなります。体に負荷を増やすためダイナミックに体を動かすことがおすすめです。
歩幅を広く歩くことができるようになったら、膝を高く上げて歩いて下さい。太ももを重点的に使うイメージで歩くと、膝を高く上げることができます。そのとき、上半身を少し前に倒しながら、腕も大きく振って歩くのもコツです。膝を高く上げることで、股関節周りの筋肉がほぐれていきます。腰回りの筋肉を使うことによって大腰筋が鍛えられると股関節を伸ばすことができ、骨盤ゆがみの改善につながります。
背中やお尻、太ももの裏側など普段よく使う筋肉を緩める作用が大きく、リラックス効果もあるとされています。背筋を伸ばし、つま先を上に向けて足を踏み出し、かかとから着地する。指先に向かって体重を移動し、しっかりと踏み込んでから、後ろ足のつま先でプールの底を蹴るようにして体を前に押し出します。水中で歩くと、日ごろあまり使わない前脛骨筋(ぜんけいこつきん)が鍛えられつまずきや転倒を予防できます。腰痛がある人は、腰への負担が少ない後ろ歩きがおすすめです。進行方向に背中を向けて背筋を伸ばし、片足をまっすぐ後ろに引きます。引いた足の上にしっかりと重心を移動してから、前に残した足のつま先を上げる。足を後ろに引くときは、腰が『くの字』にならないように注意してください。
基本の歩き方に慣れたら、膝を直角に上げて歩いてみてもいいでしょう。運動不足で大腰筋が弱まっていると、上体が前に傾きがちなので注意しましょう。さらに運動強度を高めたいときは、歩行速度を上げたり、歩幅を広げたりしましょう。合間にジャンプやスクワットを入れるのもよいでしょう。
プールに入る前後にはストレッチ体操をすることが重要です。入水から2分程度は体が水に慣れるのを待ち、首や手首の内側で脈拍を測る。10秒間の脈を数えて6倍すれば1分間の脈拍になります。水中では脈拍が低く出ます。1分間に120~150拍を超えないよう気をつけましょう。こまめな水分補給も忘れずにしましょう。25メートルを約60秒で歩くペースから始めて、体調などに合わせて負荷を調整します。水中運動は短時間でも効果があります。水中の心地良さを感じるだけでも、日ごろの疲れが癒せるでしょう。
最後に正しいフォームのチェックポイントを簡単にまとめます。
- 前を向く
- 背筋を伸ばして胸を張る
- お腹を引き締める
- 足だけでなく、骨盤から前に出るようにする
これらに注意して体力と関節の痛みに合わせ水治療を行ってみてください。
水治運動療法の運動量
ここで単純なカロリー計算をしてみましょう。
水中ウォーキングが約300kcal、ウォーキング約150kcalです。もちろん、消費カロリーは身長や体重などの個人差、歩くスピードなどの運動強度に左右されますが、水中ウォーキングは約2倍の数値になります。
同じ時間をかけるなら、地上でウォーキングするよりも水中の方がたくさんのカロリーを消費できることは間違いありません。
温浴治療と作業療法について
温浴治療というのは関節拘縮がある人、怪我で患部が癒着している人、手や足を動かすことに恐怖を持っている人に効果を発揮します。
関節拘縮は関節が固まってしまい動かせなくなった状態を示します。怪我や脳卒中の後遺症としてしばしばみられる状態です。この為、作業療法士はゆっくりと患部の周りの筋肉をマッサージしながらゆっくりと関節を動かしていきます。これを関節可動域訓練といいます。
関節可動域訓練を行う際に注意することは痛みを患者さんに与えないことです。力任せに動かすと痛みを訴える患者さんが殆どです。このため痛みを与えないように、かつ効率よく関節可動域訓練を行うために患部をお湯につけて関節可動域訓練を行います。まず20分間、関節拘縮を起こしている所を温浴治療専用のマシンにいれます。
温浴治療を行うことで温熱効果と、お湯の中で発生させた気泡による圧刺激、気泡が破壊するときに生じる超音波刺激などが相乗的に作用するとされます。20分間の温浴が終わるマシンのスイッチを切り、その後はおよそ20分間患部をマッサージしつつゆっくりと関節可動域訓練を行います。マシンのスイッチを切ってお湯の対流を止めるのは対流のせいで出来た泡で患部が見えづらくなるのを防ぐためです。夏でも温浴治療を行うケースが多いです。勿論クーラーをきかして行い、夏は暑いので水分補給を忘れないように行っていきます。
温浴治療は自宅でもできる
自宅でも温浴治療はできます。
あくまでセルフケアの範囲になりますがするとしないとでは大きな差が生まれます。簡単な方法をお伝えします。まずは浴槽にお湯を入れ20分間お湯につかります。その後、痛みのある部分の周囲の筋肉や皮膚をマッサージしていきます。これだけでも癒着や関節拘縮を緩和することができます。これによって日常生活で感じる関節の痛みを和らげたりすることができます。
皆さんも是非その日の体調に合わせてやってみてください。