水は私たちの生活になくてはならない存在であり、飲料水だけでなく生活用水、農業、工業など様々な用途で使用されます。
しかし世界的に水不足に陥る可能性が高いと危惧され、近年ではバーチャルウォーター(仮想水)という言葉をよく耳にするようになりました。
バーチャルウォーターと世界的な水問題について解説いたします。
バーチャルウォーター(仮想水)とは?
バーチャルウォーター(仮想水)とは、食料を輸入している国が、その輸入食料を生産する場合、どれぐらいの水が必要かを推定し、算出したものです。
ロンドン大学のアンソニー・アラン氏が1993年に初めて提唱され、2009年には革新的な概念としてストックホルム・ウォーター賞を受賞しました。
世界で取水している水全体の約69%が農業用水として利用されており、続いて工業用水が約19%、生活用水は約12%と限られたものです。
そしてもっとも水を使用している産業が畜産業で、牛肉を生産するには、穀物を大量に消費しながら育つので、牛肉1kgに対して約20,000倍もの水が必要となります。
食料の輸入は形を変えて「水」を輸入していると考えられるということです。
ウォーターフットプリントとは?
ウォーターフットプリントとは、バーチャルウォーターと同じような概念で、原材料の栽培・生産や製造・加工、輸送・流通、消費、廃棄・リサイクルまでのライフサイクル全体など、モノやサービスで消費の過程において、定量的に環境への影響を評価したものがウォーターフットプリントです。
ウォーターフットプリントによると、例えば1kgのとうもろこしを生産から消費までを行うには約1,200リットルの水が必要となり、とうもろこしなどの穀物を消費する牛の飼育には、飼料を生産するのに必要とする水に加えて、牛そのものが消費する水も含まれます。
バーチャルウォーターと世界の水問題
水源の需要拡大や、人口の増加、気候変動により、世界的に水不足の悪化が懸念されております。
国際機関のユネスコでは2030年には、世界人口の47%が水不足になると発表しております。
2040年までには、中東諸国や北アフリカなど33ヶ国で重大な水ストレスが発生するという予測で、アメリカや中国といった先進国も含まれており、経済的な影響も危惧されております。
2050年以降には、50億人以上が水不足に直面する見込みで、比較的水資源が豊富な国でも、限定的な地域で水不足が起こると言われております。ロンドン、東京、モスクワでも、その数年後に水の入手が困難になるという予測が立てられております。
バーチャルウォーターは世界全体で意識すべき環境問題となっており、国際NGOウォーターエイドでは、2030年までに世界中の人々が、必要な水を必要な時に利用できるようになることを提言し、行政機関をはじめ、企業への呼びかけを強めております。
バーチャルウォーターと日本
日本はバーチャルウォーターの輸入量世界一です。
日本は食料自給率(カロリーベース)が低く、農林水産省のデータでは、日本の食糧自給率は2018年で37%でした。日本のカロリーベースの食料自給率は40%程度であり、日本人は海外のバーチャルウォーターに依存している状態です。
2005年において、海外から日本に輸入されたバーチャルウォーター量は、約800億立方メートルとされており、その大半は食料に起因しております。この水の量は日本国内で使用される年間水使用量と同程度です。
バーチャルウォーターの計算方法
私たちの身近な食品には多くのバーチャルウォーターが含まれています。
バーチャルウォーターは定義として、輸入食料品を消費国が国内で生産した場合、必要となる水の推定を算出したものであり、国ごとに異なります。
仮に1合のお米を生産したとして、収穫するまでに消費される水は555リットルとされています。もし3合炊くのであれば、消費される水は単純に3倍ということになります。1号は150gなので、150gのお米を作るのに555リットルが必要ということです。
上記は牛肉、豚肉、鶏肉100g、鶏卵10個を生産するのに必要なバーチャルウォーターを計算したもので、牛肉には2,060L、豚肉には590L、鶏肉には450L、鶏卵には1,792Lのバーチャルウォーターが必要となることが分かります。
環境省のホームページで仮想水を計算することができるので、よろしければご自身でもチェックしてみてください。
バーチャルウォーターの問題と打開策
バーチャルウォーターは輸出国の水資源を使用しているので、間接的にその国の水を使用していることになります。しかも水が潤沢に使える国でさえ、国内で消費する水を減少させている為、水状況が芳しくない国や水不足に陥っている国からすると大きな問題です。
日々消費している食材の中には、生産国の水が使われており、私たちはその恩恵を受けております。無意識に消費されている水は、生産に要した時間を考えても非常に多いです。本来であれば生産国に住む人々が生きる為に使用できたかもしれない水を、私たちが輸入して使っています。
この現状を打開する為には、私たちの食生活を見直し、地産地消や食育などを進め、食品ロスを減らすことが重要です。
何より自国の食料自給率を高めることで、海外の食料輸入に依存する必要がなくなれば、生産国で生活用水として水を利用することができるかもしれません。
バーチャルウォーターまとめ
水の惑星と呼ばれる地球ですが、存在する水の97.5%は塩分を多く含む海水で、淡水はわずか2.5%ほどです。さらに淡水の多くは極地圏の氷や氷河や地下水として存在する為、人類が使用するのに適した状態の河川・湖などの淡水は地球上の水のわずか0.008%です。
水不足はバーチャルウォーターだけが問題ではありませんが、地球温暖化や気候変動などの影響に加え、バーチャルウォーターが増えれば水不足を加速させることになります。
バーチャルウォーターを節水することは個人レベルでは難しいのも事実ですが、長期的かつ輸入という大きな枠組から考えて取り組む必要があります。
私たち個人でも毎日の生活で使用する水なら個人で今すぐに節水を始めることができます。私たちの食生活に関わる以上、意識次第でバーチャルウォーターを抑えることにもつながります。
バーチャルウォーターの問題を知り、私たちにできることを考え、実行していきましょう。